相続インフォメーション

船橋のあしたば法律事務所の弁護士 田村誠志が、相続問題について説明します。

預貯金は遺産分割の対象になるでしょうか?

1 平成28年12月18日まで、預貯金は他の金銭債権(他の誰かに対してお金の支払を請求できる権利のことです)と同じように、被相続人が死亡したら当然に相続分にしたがって分割されるものと考えられていました。要は遺産分割の対象にならない財産だったのです。たとえば、被相続人が亡くなって配偶者と子1人が相続人だった場合、遺産に不動産があれば、それを誰が相続するかを配偶者と子で話し合ったり裁判所の審判で決めたりしないと不動産の帰属が決まりませんが、遺産に預貯金があれば、遺産分割の話し合いなどしなくても当然に半分ずつを取得する権利がそれぞれにあったのです。

 

2 しかし、平成28年12月19日の最高裁判所大法廷の判決により、預貯金は遺産分割の対象になりました。この日以降は、遺産に預貯金があると、それを誰がどれだけ相続するかを相続人の間で話し合ったり裁判所の審判で決めたりしなければなりません。

  参考までに、判決文が読める裁判所のホームページへのリンクを貼っておきます。

  http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/354/086354_hanrei.pdf

 

3 なお、以前から、銀行は、預貯金を複数相続人のうち1人が自分の相続分だと言って一部を引き出そうとしてもこれに応じていませんでした。相続人全員の署名・押印をした手続書類や遺産分割協議書の提出を求めていたのです。そのため、最高裁大法廷判決の前後によって取扱いが大きく異なるようになったわけではありません。

 

4 また、平成30年6月13日に相続法改正があり、同月20日に公布されました。公布から1年以内に施行されますが(平成31年6月1日が有力です)、この改正により、①家庭裁判所を通じて相続人が単独で預貯金の仮払いが受けられるようになります。また、②預貯金額に対して法定相続分の3分の1まで、単独で引出しができるようになります(配偶者と子1人が相続人の場合、それぞれの法定相続分は2分の1なので、それぞれ6分の1まで単独で引出し可能)。被相続人の預貯金から葬儀費用などの緊急の支払ができるようにするための改正です。

自筆証書遺言を訂正する方法とは

1 現在の法律では、遺言書の全文を自分で手書きして押印しなければならない自筆証書遺言ですが、加除訂正にも厳しいルールがあります。間違えたからといって、二重線を引くだけで済むわけではありません。 

 

2 手順としては、①遺言者が変更箇所を指示して、②そこに変更した旨を付記して、③特別にそこに署名し、④さらに変更箇所に押印しなければなりません(民法968条2項)。他人による変造を防止するために、このような厳しいルールが設けられています。

  たとえば、訂正した行の余白に、「本行について△△を◆◆と変更した」などと記載したうえで、それに続けて署名し、元の記載部分に押印するというような形です。かえって、一般的な訂正方法である二重線を引くことは条文上求められていません(二重線を引いても問題ありませんが)。

  なお、他の例として、加筆する場合には「本行の△△と◆◆の間に◎◎を挿入した」などと記載し、それに続けて署名して、元の記載部分に押印することになるでしょう。削除する場合には「本行の△△を削除した」などと記載し、それに続けて署名して、元の記載部分に押印することになるでしょう。

 

3 細かく直すのが大変だとか、遺言書の余白が細かい文字であふれて汚くなってしまうのが嫌だという場合には、イチから書き直すのがよいと思います。

遺言の種類を解説します ~とくに自筆証書遺言と公正証書遺言について~

1 遺言には、①自筆証書遺言(自分で書く遺言)、②公正証書遺言(公証役場で作る遺言)、③秘密証書遺言(自分で遺言書を作るが公証人や証人も関与する遺言)、④一般危急時遺言(死期が迫った人が緊急にする特別な遺言)、⑤伝染病隔離者遺言(伝染病で交通を断たれた人の作る特別な遺言)、⑥在船者遺言(船舶航行中の特別な遺言)、⑦船舶遭難者遺言(航行中に遭難し死期が迫った人が緊急にする特別な遺言)といった多くの種類があります。

  以下では、通常利用される①自筆証書遺言と、②公正証書遺言について簡単に説明します。

 

2 自筆証書遺言は、遺言書全文を自分で手書きし押印しなければならない遺言です。相続させる財産目録の書き出しも全て手書きです(ただし、平成31年1月13日からは法改正により財産目録はパソコンなどで作成したものを印刷することで足りるようになります)。自分で紙に書いて押印さえすればよいので、手軽にでき、費用もかかりません。隠れて1人で作ることができます。一方、方式不備で無効とされる場合があったり(特に加除訂正に厳格な要件があります)、遺言書が紛失したり改ざんされたりするおそれがあったりします。また、自筆証書遺言は被相続人の死亡後に検認という家庭裁判所の手続が必要です。

 

3 公正証書遺言は、遺言の内容を公証人に伝え、公証人が作成する遺言です。遺言作成の専門家である公証人が作成するので、方式不備のおそれはほぼありませんし、遺言書が公証役場に保管されるので紛失や改ざんのおそれも少ないです。また、公正証書遺言には検認の手続が必要ありません。一方、遺言書作成に費用(数万円程度のことが多いです)がかかりますし、証人が2名必要なのでそこから遺言の情報が漏れる場合もあります。

 

4 私個人は、特に希望がなければ公正証書遺言の作成をお薦めしています。私と公証人とでダブルチェックをおこない遺言内容の不備がないようにできますし、費用もそこまで高額とはいえないからです。また、検認の手続も要らないので被相続人の死後にスムーズに遺産の分配をすることができます。

親の遺言のとおりでなくとも、相続人全員で好きなように遺産を分けられるか?

親の遺言といっても、完璧ではなく、中には相続人間で、より良いと考えるように分けたいというニーズはあると思います。

このように、遺言と異なる遺産分割ができるかどうかですが、遺言を無視して構わない場合と、無視してはいけない(遺言のとおりにしか分けられない)場合があるとされています。

遺言を無視できる場合とは、次の①~④を満たす場合です。

①法定相続人の全員が、遺言と異なる遺産分割方法とすることに合意している
②法定相続人以外の人(法人含む)が遺言によって遺産を取得することとされている場合(=遺贈)には、その人も遺言と異なる遺産分割方法とすることに合意している
 ⇒反対しているからといって関係者を1人でも抜いたら、そのまま遺産分割協議をまとめても無効です。遺言で法定相続分より得をしていた相続人や、元々は法定相続分がなかった受遺者(=遺言による贈与を受けた人)をより損する方向に説得するのはなかなか大変でしょう(もちろん、その人に対する詐欺や強迫はご法度ですし後で取り消されてしまいます(民法96条))。通常は損に見合うような利益を与えることになりますね。

③遺言で遺言執行者が指定されている場合には、指定された遺言執行者が就任を辞退するか、遺言と異なる遺産分割方法とすることに同意するか、遺言執行と矛盾しない形で遺産分割するかしている
 ⇒遺言執行者は遺言のとおりに財産を分配・処分するのが職務上の義務なので、これを説得するのも大変ですが、関係者全員が同意していることからそれを追認しても免責されるという意見もあります。
 また、そもそも遺言執行者は遺言の全てを処理するわけではありませんので、遺言執行と矛盾しない遺産分割があり得ます。たとえば、不動産を法定相続人の1人に相続させる遺言がある場合、これは執行がなくても不動産の所有権が当該相続人に移転することになりますので、相続登記については遺言執行者がいてもこれを無視しておこなうことができます。

④遺言をした被相続人が、遺言と異なる遺産分割方法とすることを許容している(ように読める遺言を作成しているなど)
 ⇒たとえば、被相続人の遺言に「私は、相続人が私の死後に争うのを避けるためにこの遺言を作った」と書いてあれば、相続人が平穏に協議で他の分割方法をとることも妨げていないと読めます。しかし、逆に「この遺言と異なる遺産分割を禁ずる」とか「妻(夫)と次男は、私の生前に不義理をしたので、相続させないこととした。」などと書かれていれば、被相続人が遺言と異なる遺産分割方法を許容していないと読めるので、遺言に従わなければならないことになります。

と、ここまで遺言と異なる遺産分割方法が許される場合について長々と書いてきましたが、実は、実務上は、遺贈や「相続させる」旨の遺言によって被相続人の死亡時に遺言のとおりに分配がなされる(最高裁平成3年4月19日判決。したがって、その後の遺産分割協議は論理的にありえない)としながらも、「相続後に関係者間で遺産を贈与したり交換したりした」という理屈で遺言と異なる遺産分割協議を救済しています(東京高裁平成11年2月17日判決など)。上記①②に反する場合はこの理屈では克服できませんが、少なくとも上記③④に反する場合なら無視できる理屈です。

 ですので、関係者が全員合意していれば、上記の理屈で遺言と異なる遺産分割が許容されることになります。

 なお、このときに、相続後の贈与ということで相続税と別に贈与税などがかからないのかは理論上問題なのですが、国税庁は、上記とは違う理屈(事実上、受遺者が遺贈を事実上放棄して遺産分割協議をした)で贈与税の課税をしないこととしているようです。
http://www.nta.go.jp/taxes/shira...

 

相続法が改正されました。

平成30年(2018年)7月6日、民法の中の「相続法」に大きな改正がありました。

以下では、簡単に改正の内容をお伝えします(それぞれの制度についての詳細は、改めて記事を書きたいと思っています)。

 

1 被相続人(亡くなった方)の配偶者の自宅居住権への配慮

  これには、短期居住権と、より長期の居住権とが認められました。

(1)配偶者短期居住権

   相続開始時に、配偶者が被相続人の建物に無償で住んでいた場合、その配偶者は次の期間、居住建物を無償で使用できます。

  ①配偶者が居住建物の遺産分割に関わるときは、居住建物の帰属が確定する日まで(ただし、最低6か月は保障されます)

  ②居住建物が第三者に遺贈されたときや配偶者が相続放棄をしたときは居住建物の所有者となった者から消滅請求を受けてから6か月

(2)配偶者居住権(より長期の居住権)

   遺言や遺産分割などにより、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物において、終身または一定期間、配偶者に建物の使用を認めることができるようになります(配偶者居住権を取得させることが可能)。

 

2 配偶者への居住用不動産の遺贈・贈与の保護

  20年以上結婚している夫婦間で、居住用不動産(土地建物)を遺贈・贈与した場合には、原則としてそれを特別受益として取り扱わないこととなります。

  ※ これまでは、居住用不動産の遺贈・贈与が特別受益となり、その価値分の遺産を配偶者が遺産分割の際に受け取れないことが多くありました。

 

3 相続された預貯金の仮払い制度

(1)預貯金に限って、仮払いの必要性(生活費、葬儀費用、借金返済など)が認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない範囲で、家庭裁判所が判断して仮払いが認められるようになります。

(2)預貯金の一定割合については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口で支払を受けられるようになります(残高の3分の1 ✖ 法定相続分

  ※ これまでは、預貯金については遺産分割協議書などで相続人全員が分配に合意しないと、払戻しが受けられない扱いがされていました。

 

4 相続開始後の財産処分の調整

  相続開始後(被相続人の死亡後)、共同相続人の1人が遺産を処分した場合、処分された遺産について処分していない相続人の同意をもって遺産分割の対象とすることが可能になりました。

  ※ これまでは、共同相続人の1人が遺産を処分した場合、遺産分割調停や審判ではなく通常の民事訴訟で争われていましたが、立証責任などの面で請求する側が不利だと言われていました。

 

5 自筆証書遺言の要件緩和

  自筆証書遺言(公正証書ではなく自筆で遺言を作成)において、財産目録をパソコンで作成したり、財産について証拠資料(通帳コピーや不動産登記事項証明書など)を添付したりすることでも有効な遺言と扱われるようになりました。

  ※ これまでは、自筆証書遺言は目録も含めて全て自筆で作成する必要がありました。

 

6 遺留分制度の見直し

(1)遺留分減殺請求権から生じる権利を金銭債権としました(○○円を請求する権利)

  ※ これまでは、遺留分減殺請求によって遺産の不動産が請求した人と請求された人との共有になるなどの扱いがとられており、売却などに不便な場合がありました。

(2)遺留分減殺請求を受けた人(受遺者・受贈者)がお金をすぐに準備できない場合、そうした人の請求によって、裁判所が、支払に期限を付けることができるようになります。

 

7 相続の効力についての見直し

  「不動産○○をAさんに相続させる」といった遺言で承継された財産は、法定相続分を超える部分について、登記などの対抗要件を備えなければ第三者(相続債権者など)に対抗することができないこととなります。

 

8 相続人以外の人の貢献を考慮

  相続人以外の親族が、無償で被相続人の療養看護(介護)などをおこなった場合、一定の要件のもとで、相続人に対してお金の支払を請求することができるようになります。

  ※ これまでは、相続人以外の人は、どれだけ介護をしても相続財産をもらうことができませんでした。

 

以上、多くの点で改正がされました。施行日は、原則として2019年7月12日までの政令指定日ですが、自筆証書遺言の要件緩和(5)については2019年1月13日、配偶者の居住権については2020年7月12日までの政令指定日とされていますので、注意が必要です。たとえば、2019年1月12日までは、自筆証書遺言は全て自筆で作成しなければなりません。

 

長くなりましたが、これらの説明は概要にとどまりますので、また改めてそれぞれの制度について記事を書きたいと思います。

 

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遺産分割についての質問いろいろ。

今日は、遺産分割に関するよくある質問に回答します。

 

Q1.相続人になる兄弟が3人いるけど、そのうち仲のよい2人だけで遺産をどう分けるか決めてしまってよいの?

A1.ダメです。遺産分割は相続人全員で合意しなければ違法です。直接話し合うことが難しければ、家庭裁判所で遺産分割調停や審判をおこない、全員で解決をする必要があります。

 

Q2.3000万円の遺産を3人で分けるとしたら、1000万円ずつに分けるしかないの?

A2.そんなことはありません。相続人全員の合意ができるのであれば、どのような内容でも構いません。極端な話、1人が3000万円を取得し、残りの2人は0円でも大丈夫です(別途、詐害行為取消権などの問題はあります)。

 

Q3.借金も遺産分割で分けられるの?

A3.分けられます。通常、借金のような債務は、相続割合に応じて分割されると考えられていますが、相続人全員の合意ができるのであれば、相続人のうち特定の誰かが多めに借金を受け継いだり、全額を受け継いだりすることもできます。ただし、お金を貸している人にダメだと言われると、その債権者との関係では相続割合に応じて考えるしかありません。

 

Q4.別の人に貸しているアパートを、遺産分割で取得することになりました。被相続人が亡くなってから合意まで3年間の家賃が300万円貯まっていますが、これも全額取得できますか?

A4.原則ダメです。遺産分割までの家賃は、相続割合に応じて分割されますので、もし相続人が3人いれば、1人100万円を取得することになります。ただし、これも相続人全員で合意すれば、貯まった家賃の分け方を自由に変えることができます。なお、遺産分割後の家賃はアパートを取得した人のものです。

 

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相続放棄について。

今日は相続放棄について説明します。

ある人が死亡すると、その相続人は自分の意思とは関係なく遺産を承継することになります。

しかし、相続人の中には、遺産には借金しかないとか、他の相続人に全てを受け継いでもらえばよい(自分は管理したくない)とかいった理由で、自分は相続人になりたくないという方もいると思います。

そのときに活用するのが、相続放棄という制度です。

 

相続放棄の手続をすると、はじめから相続人にならなかったものとみなされますので(民法939条)、遺産を承継することはなくなります。

 

相続放棄をするには、家庭裁判所に申述(申し述べること)をしなければなりません(民法938条)。具体的には、相続放棄申述書という書類を家庭裁判所に提出するのが大多数です。

家庭裁判所は全国にありますが、相続開始地といって、亡くなった方の最後の住所を管轄している裁判所に書類を提出するようになります。

相続放棄ができる期間は、ある人(被相続人といいます)が亡くなるなどして自分が相続人となって財産を受け継ぐのだと知った時から3か月間です(民法915条1項)。ですから、そもそも亡くなったのを知らなかった場合や、元々の相続人が相続放棄したために初めて自分が相続人になったと知った場合については、実際に被相続人が亡くなってから3か月以上経っていても相続放棄ができます。

また、3か月以内に財産がプラスかマイナスかわからなかったときなど、放棄すべきかどうか判断がつかなかった場合には、期間を過ぎる前に家庭裁判所に請求することでこの期間を伸長(伸ばす)することができます。

 

相続放棄には、法律上は放棄をする理由は必要とされていませんが、よくわからないまま放棄をするのを防ぐために、家庭裁判所の運用で、放棄する理由や相続財産を記入させることが一般です。

これは、相続放棄を一度してしまうと撤回できないことから(民法919条1項)、するなら慎重に放棄してもらいたいとの考慮もあると思います。ただし、詐欺や強迫によって放棄してしまった人については取消が認められています(民法919条2項)。

 

相続放棄を検討されている方の一助になれば幸いです。

 

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