相続インフォメーション

船橋のあしたば法律事務所の弁護士 田村誠志が、相続問題について説明します。

親の遺言のとおりでなくとも、相続人全員で好きなように遺産を分けられるか?

親の遺言といっても、完璧ではなく、中には相続人間で、より良いと考えるように分けたいというニーズはあると思います。

このように、遺言と異なる遺産分割ができるかどうかですが、遺言を無視して構わない場合と、無視してはいけない(遺言のとおりにしか分けられない)場合があるとされています。

遺言を無視できる場合とは、次の①~④を満たす場合です。

①法定相続人の全員が、遺言と異なる遺産分割方法とすることに合意している
②法定相続人以外の人(法人含む)が遺言によって遺産を取得することとされている場合(=遺贈)には、その人も遺言と異なる遺産分割方法とすることに合意している
 ⇒反対しているからといって関係者を1人でも抜いたら、そのまま遺産分割協議をまとめても無効です。遺言で法定相続分より得をしていた相続人や、元々は法定相続分がなかった受遺者(=遺言による贈与を受けた人)をより損する方向に説得するのはなかなか大変でしょう(もちろん、その人に対する詐欺や強迫はご法度ですし後で取り消されてしまいます(民法96条))。通常は損に見合うような利益を与えることになりますね。

③遺言で遺言執行者が指定されている場合には、指定された遺言執行者が就任を辞退するか、遺言と異なる遺産分割方法とすることに同意するか、遺言執行と矛盾しない形で遺産分割するかしている
 ⇒遺言執行者は遺言のとおりに財産を分配・処分するのが職務上の義務なので、これを説得するのも大変ですが、関係者全員が同意していることからそれを追認しても免責されるという意見もあります。
 また、そもそも遺言執行者は遺言の全てを処理するわけではありませんので、遺言執行と矛盾しない遺産分割があり得ます。たとえば、不動産を法定相続人の1人に相続させる遺言がある場合、これは執行がなくても不動産の所有権が当該相続人に移転することになりますので、相続登記については遺言執行者がいてもこれを無視しておこなうことができます。

④遺言をした被相続人が、遺言と異なる遺産分割方法とすることを許容している(ように読める遺言を作成しているなど)
 ⇒たとえば、被相続人の遺言に「私は、相続人が私の死後に争うのを避けるためにこの遺言を作った」と書いてあれば、相続人が平穏に協議で他の分割方法をとることも妨げていないと読めます。しかし、逆に「この遺言と異なる遺産分割を禁ずる」とか「妻(夫)と次男は、私の生前に不義理をしたので、相続させないこととした。」などと書かれていれば、被相続人が遺言と異なる遺産分割方法を許容していないと読めるので、遺言に従わなければならないことになります。

と、ここまで遺言と異なる遺産分割方法が許される場合について長々と書いてきましたが、実は、実務上は、遺贈や「相続させる」旨の遺言によって被相続人の死亡時に遺言のとおりに分配がなされる(最高裁平成3年4月19日判決。したがって、その後の遺産分割協議は論理的にありえない)としながらも、「相続後に関係者間で遺産を贈与したり交換したりした」という理屈で遺言と異なる遺産分割協議を救済しています(東京高裁平成11年2月17日判決など)。上記①②に反する場合はこの理屈では克服できませんが、少なくとも上記③④に反する場合なら無視できる理屈です。

 ですので、関係者が全員合意していれば、上記の理屈で遺言と異なる遺産分割が許容されることになります。

 なお、このときに、相続後の贈与ということで相続税と別に贈与税などがかからないのかは理論上問題なのですが、国税庁は、上記とは違う理屈(事実上、受遺者が遺贈を事実上放棄して遺産分割協議をした)で贈与税の課税をしないこととしているようです。
http://www.nta.go.jp/taxes/shira...